「オーバーホール」という言葉、これはアンティーク時計を探していたり調べていると必ず出てくる言葉です。
何をするのかと簡単に言えば、たくさんの小さな金属の部品から構成されている時計をバラバラにして掃除、そして必要な部分に注油をして組み立てることを言います。
例えるなら定期的な車検・人間ドック、時計に当てはめると「分解・掃除・注油」これがセットになった検診といった感じです。
■ どうして必要なのか?
いろいろな時計店や情報が書かれたホームページを読んでも、一様に「オーバーホールを受けてください」と書いてあるかと思います。「受けてください」と書いてあるだけではわかりにくいものですよね。
では、どうして必要なのかを考えていきましょう。
アンティーク時計の中を開けて見たことはありますか?
見たことのある方ならお分かりですが、時計の中は小さな金属部品だけです。
そう理由は簡単。部品のほとんど・もしくは全部が「金属」なので、使っているうちに錆びる・磨耗する・磁気を帯びるといったことがあるわけです。
わかりやすい例を取れば、古い納屋や倉庫のドア・自転車のチェーンなど、年が経つ・使っていくうちに「ギー!」という変な音が鳴るようになってきませんか?音が鳴ってくるとどうですか?錆びたり油切れしたりしていませんか?
そんなときは油を差したり、クレ556などを使って錆びを落としたり、その部分の潤滑を良くしますよね?
時計とは部品の大きさも役割も違うのでまったく同じというわけではありませんが、時計にもそれと同じことが起こるわけです。
時計の場合は1日24時間=1440分=86400秒、年間にして8760時間=525600秒という間、ほぼ正確に時を刻んでいます。単純に計算しても、同じ部品が年間に数十万回と同じ動きをすることになります。
内部では数十万回とハードに動いている時計は、各部品ともそういった動きに耐えられる素材・専用の潤滑油が使われているわけですが、さすがにそれも永久には続きません。
変な話ですが、1日に10回程度しか開け閉めしないドアが「ギー」っと音を立てるのですから、時計もドアのように大きければ「ギー」っと音を立てているのかもしれません。
そこで定期的に、時計の中に入ったほこりやゴミ、錆びが出ていないかのチェック、油の差し替えなどが必要になってくるというわけです。それが「オーバーホール」です。
こう書くと、「なるほどオーバーホールが必要なわけだ」と納得しませんか?
アンティーク時計はもちろん、今現在売られている新しい手巻き・自動巻きなどの機械式時計は、こういった理由で定期的にオーバーホールを受けることが必要というわけです。
■ オーバーホールを受ける頻度
これには諸説あって、おおむね3年~5年の間で受けてもらうのが良いとされています。
この年数は時計店によって「3~5年ぐらい」でバラバラではありませんか?ある時計店は3年、ある時計店は5年でも良いと書いてある・・・「なんで決まっていないの?」と思ってしまいませんか?
「諸説ある」理由は、「一概には言えない」というのが大きな理由です。
例えば作られた年代が違えば「時計の現状のコンディション」も違うわけで、現在の防水・防磁機能などが備わった時計とアンティーク時計では、おのずと劣化する速度も変わってきます。
また保管される場所や使われ方も違います。ある人は時計を労わって雨の日には使わない、ある人は雨の日でも湿気の多い日でも使う、そうなれば時計の中に湿気が入る・傷む度合いも大きく変わってきます。使う頻度によってもそうで、毎日使う人もあれば、1週間に1度使う程度の人もいます。
さらに時計自体の持つ能力・素材も違います。アンティーク時計で言うなら、安いメーカーや1ドル時計などのように、できるだけコストを絞って作られた時計と、素材にもちゃんとお金をかけられた時計では、素材自体の錆び・磨耗などへの耐久力もまったく違うわけです。
こういった理由もあって、車検のように必ず「何年」と決まっているわけではないのです。
アンティーク時計では、一般的に推奨されているのは3年に1度。長くてもあまり使わない場合でも5年に1度は受けていただくことが勧められています。
■ オーバーホールを受けないとどうなるのか?
金属部品なので長い目で見ると、油切れを起こし部品が磨耗します。
ただ部品が使えなくなるほど磨耗するかというと、さすがにそこまでの状態になる前に正しい時間を指さなくなり動かなくなります。時計としては使えなくなるのが普通で、そうなると使わなくなりますよね?
オーバーホールをしないことで、部品が完全に磨耗してダメになるということはまれです。
オーバーホールを受けずに放置しておけば、錆びが原因で部品や機械自体が使い物にならなくなることは良くあります。
■ オーバーホールにかかる費用
一概には言えないところですが、一般的に機械式時計の場合は安くても「1万円以上」が相場です。
1万円なら「安い」と言えますが、この値段でオーバーホールをしてくれるところはあまりありません。
値段が変わる要素としては、これもお店によりますが、「メーカー・時計の元の値段」「舶来品」「手巻き・自動巻き」などで大きく変わってきます。
「メーカー・元の値段」は、高級メーカーや時計本体の値段が高い場合は、万が一の損傷・紛失などのリスクや、部品の値段・技術などで高くなっていることが考えられます。100万円の時計を修理するのと1万円の時計を修理するのでは、万が一壊したときや盗まれてしまったときのことを考えると、料金を高く設定しないと預かれないというのも道理です。
修理をする方は「壊さない」のが大前提ですが、そこには技術・経験が必要で、リスクや仕事によって金額が変わることは当然だと思ってあげるべきです。
またもう1つの大きな要素、「手巻き・自動巻き」などの機械では、自動巻きのほうが調整する部分や手間が多いため、単なる手巻きと比べると自動巻きのほうが2割ほど高くなるようです。
その他、日本の場合は、「舶来品」という名目で高くなることもあります。
あと通常のオーバーホールとは別に、料金が変わる要素として「部品の交換」があります。
例えばヒゲゼンマイやゴムパッキン・リューズの巻き芯など、比較的劣化しやすい部分はオーバーホールの時に交換を勧められることがあります。またそれ以外の部品でも支障が見つかり交換することになれば別途に料金がかかります。
■ オーバーホールにかかる期間
だいたい早くても2週間以上、一般的には1ヶ月ぐらいです。
分解・洗浄・乾燥・注油・組み立てなどの工程があり、それが終わっても姿勢差による時差の確認・再調整など、「直してから1日置いてみる」など、すぐに調整ができない・時間のかかる工程もあります。
また他にも修理をしている時計があったり、順番もありますので、ある程度このぐらいの時間はかかるものだと思っておきましょう。
■ オーバーホールをしてくれるお店を探す
今はインターネットで修理・オーバーホールをしてくれるお店を探すことができます。
どのお店も見積もりは無料のところが多いので、「ここでいいかな?」と思うお店が見つかったら、連絡を取ったり時計を送ったりして見積もりを取ってみましょう。
<ホームページで修理・オーバーホールを受け付けているお店の一覧>
・本音で言うと使ってほしいのは地元のお店。
年々閉店する時計店が増えていますし、時計店が閉店することで経験のある技術者もいなくなっています。
実際に近くで対面で話せるお店のほうが安心しますし、料金的に良心的なところもあります。近くに時計店があれば、見積もりだけでも顔を出してみると良いでしょう。
・「値段=腕の良さ」ではない。だからといって「安さ=お得」というわけでもない。
いろいろなお店を比べると、オーバーホール料金の差は+-5000円からそれ以上というところも。
特にアンティーク時計のオーバーホールでは、技術者の知識や技術・経験が大きく結果を分けます。というのもアンティーク時計は長い期間を使われているため、「ある種のクセ」「限界」があるから。
長く使われている車にクセが出てくるように、時計にもクセが出てきます。また時計によって機械の性能・部品の精度そのものによる限界があります。そのクセや限界に合わせてオーバーホールを施すのも、技術者の腕の見せ所。料金が高いからといって、結果が良いとは限らない理由はココにあります。
こればっかりは実際に使ってみる・他の人から評判を聞いたり教えてもらう以外はありません。
・良い技術者がいたら「使い続ける」のがお勧め
一度オーバーホールを行ってもらって、問題が無い・納得した場合は、そのお店・技術者と長いお付き合いを考えるのが得策。
新しいお店・技術者に頼むのは不安なものですし、うまくできない・傷を付けられるリスクも無いことではありません。良い人が見つかったら、次回も依頼できるように連絡先などをもらっておきましょう。
■ オーバーホール後に問題が見つかったら
誤差が出る・止まる・無かった傷が出来ていた、こういったところがオーバーホールから戻ったときの定番の問題です。
誤差が出る・止まるといった原因はいくつかの理由が考えられますが、アンティーク時計のオーバーホールでは決して珍しいことではありません。
オーバーホールの際には、必ず動作や誤差の確認などもした上で納品されますが、オーバーホール時にはわからなかった部品のへたりなどでも問題は起こります。
通常はお店で半年や1年間などの保証がされていますので、早めに連絡をして再度調整をしてもらいましょう。
またもう1つの問題に、「無かった傷が出来ていた」ということがありますが、これはオーバーホールだけに関わらず、修理や電池の入れ替え時にもある時計店に寄せられる「主なクレーム」の1つです。
お店側で依頼時の写真を撮っていることもありますが、後で問題にならないように、自分でもオーバーホールを依頼する前に、撮れる部分の写真を撮っておくことをお勧めします。
■ 直せる限界はある
現代の時計と違って、昔の時計の機構では、どうしても誤差が出ることがあります。
これはアンティーク時計の宿命といっても良く、時計自身の能力の限界であることもあります。
どれだけ丁寧にオーバーホール・調整が行われたとしても、ある程度の誤差が出ることは理解をしてあげてください。
「誤差が出ることへの言い訳」ではありませんが、この「機械でありながら人間的な味わいがある」これがアンティーク時計を楽しむ醍醐味でもあるのです。
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